旅日記

若き日の旅の思い出

那須に住む番外編

1. 初めての外国

1. 初めての外国

  思い出はバンクバー空港の入国管理オフィスの別室から始まる。そこでは、上司のSさん、先輩のYさん、そしてこの私が、制服姿の太ったやや若い女性の係官の尋問に、汗をかきながら、たどたどしい英語で必死に答えている。 その少し前に、我々は入国手続きのためにカウンターに並んだのだが、何の疑いか、この別室に連行されてしまった。出張に先だって、東京のカナダ大使館でビザを取ってきてある。窓口ではそれを差し出したが、何やらよく判らないうちにこの部屋に入れられてしまった。

 こちらでの仕事の内容、連絡先を説明する。長期の滞在であるが決して出稼ぎでないこと、それが証拠に生活費として現金を携行していることを。それぞれが3000ドル(当時のレートで100万円弱)の旅行小切手帳を見せて説明し、ようやく納得して貰って、“釈放”されたときの安堵感は今でも忘れない。
 余談になるが、近年いわゆるジャパユキ君と呼ばれるアジアからの出稼ぎ労働者の問題がマスコミで大きく取り上げられた。成田空港で行なわれる上陸阻止の水際作戦がしばしテレビの話題となった。観光目的と偽って入国を試みるが、見破られ、別室に連行されて因果を含められる。最後は強制送還となる映像を見るに及んで、僅か10年余り前、今は経済大国と呼ばれる国の一団が出稼ぎ労働を疑われ、別室でこってり尋問を受けたなどとはまさに隔世の感を禁じ得ない。


 バンクーバーから国内線の飛行機を乗り継いで目的地に向かう。その機内でも私にとっては、また大変であった。空席が半分くらいの中型ジェット機にはどういう訳か、同行三人が別々に席を割り当てられてしまった。かくいう小生は初めての海外旅行で、独りになってしまっては心細いことこの上もない。頼りになる先輩達を目で捜すと、遠くの席に陣取り、それぞれ余裕しゃくしゃくと機内誌などを手にしている。私の方は、片側二列の窓側の席に座ったのは良いものの、隣の通路側は白人の男性客である。大きな体が相棒たちとの間を遮っている。

 機は順調に離陸し、水平飛行に移った。まもなく小さなメモ帳を片手に金髪の年のいったスチュワーデスが機内を順に回り始めた。ついには僕の所にも来て、何かを話しかける。僕には全く判らない。突然話し掛けられたこともあるが、その英語が全く聞き取れない。日本国内ならこれまでにも何度か飛行機も乗ったことがある。そこではスチュワーデスが紅茶かオレンジジュースをお盆にのせて配って歩くだけだったと思う。ここでは予期せぬ出来事が全く理解のできない英語と共にやってきたのである。向こうのスチュワーデスは相手が東洋人であっても、外国人として斟酌はしない。いつもの表現で聞いて来たにすぎない。こちら恥ずかしながらポカンとしている。同じ調子で三度ほど尋ねる。何度聞かれても分からないことは同じである。しばし彼女に困惑の表情が浮かんだ。そのうち隣人が助け船を出して、。
「ビア、オレンジジュース…。カフィー?」    とゆっくり聞いてくれる。
 今なら What would you like to drink?      と聞かれれば、 What kind of drinks do you have?  と逆に問い返せるであろう。“耳が聞こえない”上に外人スチゥワーデスとやり取りする初めての経験、いかにドギマキしていたか想像以上であろう。
 その後、尋ねられた選択枝からビールを選んだ後も、その対価    One doller thirty がわからなくて、また(僕にとっては)一騒動であった。

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